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千年の恋
第42章 しじま
=黎佳=

翌日の深夜、耀と彩が眠りについたころに遥人さんは帰宅した。


風呂を済ませて寝巻に着替え、あとは寝るだけにしていた私は、玄関の鍵が開く音がして遥人さんを迎えに出た。

扉が開くと、そこには、うなだれた遥人さんと、その腕を肩に回して遥人さんを支える浅木さんがいた。

吹き込んだ外気とともに濃密なアルコールの香りがした。

「チャイムを鳴らして起こしてしまったらいけないと思ったので、社長の鍵を使わせていただきました」

夜半過ぎまで起きていた私に驚いた様子で一瞬目を見開き、直後、心なしか口元をほころばせて浅木さんは言った。

遥人さんは浅木さんの肩に頭を預け、ほとんど眠っているような状態で、崩れそうな彼を全身で支える格好の浅木さんは、寝室までお連れしていいですか、と囁いた。

私は遥人さんの靴を脱がせ、つま先を引きずるように歩く遥人さんと、それを支える浅木さんを待って寝室のドアを押し開けた。

ベッドに寝かされた遥人さんが、すうすうと寝息を立て始めたのを確認して部屋を出る。


閉めたドアの前で、私たちはしばらく向き合った。

そして、お化粧もしていなくてパジャマにガウンを羽織っただけの姿だったことに気が付いて、慌ててガウンの前をかき合わせ、顔を隠せるわけでもないのに頬に手を当てた。

「こんな格好で、ごめんなさいね」

浅木さんは首を横に振って、ふわりと優しく微笑んだ。

「明日は午後からの出勤で済むよう、社長のスケジュールを調整しておきます。遅い時間に申し訳ありませんでした」

浅木さんはそう言ってまっすぐなお辞儀をすると、くるりと玄関の方に向き直った。

「浅木さん…ありがとう」

風のように現れて、留まる間もなく去ろうとする浅木さんを目で追いながら、彼が靴を履いたところでやっと礼を伝えた。

浅木さんは微笑んだ。

これまでの笑みとは違う、より親密な、何か楽しいことを共有した後に交わすような砕けた微笑み。その時、目尻のかすかな皺が愛らしく思えた。

気づけば私も、同じように頬を緩ませて浅木さんを見つめていた。

ふわふわとした気分を味わった後、はっと我に返った。
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