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横を向いて歩こう
第8章 たかしとまさか
「松下さんと喧嘩でもしたんですか。」

「だよねぇ。」

最近松下の機嫌が悪いって色んな人が言ってて

で、あたしの所に来て報告してくんだけど

いや、あたし彼の奥さんで秘書でも元カノでもないし
そもそも何もないし

後輩鶴見によれば
あたしが原因って噂が立っているらしい

「何でみんなあたしに言うわけ?」

「苛ついてますね。確かになんで先輩に言うんだろ。言いやすいからかな。あと、松下さんのことは先輩が良く知ってるし。」

「いつから管理人になったのか。カミさんと喧嘩でもしたんじゃない。」

「松下さんが機嫌悪いとこっちもやりにくいってか仕事回んないんですよねぇ。先輩何とかしてくださいよぉ。」


実は原因はわかっていて

お兄様に近づいているとバレたあの日から
まっつんはつれない

ランチ誘っても飲みに誘っても素っ気ないのだ

仕事の伝達や指示も人伝えで来るから
実は一番困ってるのはあたしかもしれない

自分で首閉めてる?
お兄さんから手を引けば元に戻ってくれるの?

あたしはあたしで愚痴を聞いてくれる人を失って悶々としていた
いつだって良き相談相手だったのに

誠と別れたあとも新しい恋に迷うときも
いつもまっつんが聞いてくれた


仕方がない
一肌脱ぐか

あたしはデスクから立ち上がって喫煙室に向かう



しかし松下はあたしを見るなり出ていった

「はー感じ悪。」

大きめの独り言はなかなか響いて背後から笑い声が聞こえた

「久しぶり。」

振り向くと健ちゃんだった

「、、健ちゃん。」




松下に言えない鬱憤は元カレ健ちゃんが請け負ってくれて

「俺だったら別に気にしないけどな。」

「そっか。」

「だって同僚の子と自分の兄弟でしょ?むしろ嬉しいよ。共通の話題も増えるしさ。」

「人それぞれなのね。」

「というか、耳だこかもだけど、やっぱり、、」

言いにくそうにしてる健ちゃんを見つめる
振ったのは惜しい気がするけど
あたしにはすっかり過去の人だった
だからこんな相談もできるのかも

「好かれたって意味ないわ。」

「幸子ちゃんらしいね。」

「分かってくれて嬉しい。」

「そんなとこが好きだったのにな。」

健ちゃんの手が頬に触れて

「健ちゃん?」

別れたからって呼び方なんて変えない
そんな線引ける女じゃない



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