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北の軍服を着た天使
第1章 Episode 1

私の目の前に立つ確かに❝キム・テヒョン❞と呼ばれたその男が、空に向かって空撃ちしたであろう事は左手に持っている銃で安易に想像出来た。
栄養が行き届いていないのか、身長の低い男性が多い北朝鮮では珍しいくらいに高身長だ。多分、183センチ位はあるだろう。色白で手足がスッと伸びたその体型、そして……【南男北女】と云うガイドさんから教えてもらった古くから伝わる言葉とは真逆の端正な顔立ちを持つ男性。
日本の大手アイドル事務所に属していても可笑しくないレベルだ。二重のキレイな瞳に、鼻筋の通った細い鼻、そして形の良い上品な唇…。
韓国映画で北朝鮮の軍人や将校を演じているどの俳優さんよりも軍服がよく似合う。…し、文句無しに格好良いの一言しか出てこない。
「……イルボン?」
チェさんが今にも敬礼しそうな位、直立不動でハッキリとした言葉で何かを返事する。❝流川サリ❞と云う私のフルネームが出てきていたので、日本人か?と聞かれて、私が中国からのツアーで来た者だと説明している流れだろう。
「カム・ヒアー」
ブリティッシュ・エングリッシュ特有の上品な訛りの英語でそう言った彼は、私が見てきたどんな男よりも端正な顔立ちをしているが、それと同じ位、慈悲一つ無い瞳をしていた。幸い、英語にはそれなりに自信がある私は彼の言葉を即座に理解して、言われた通り後ろを付いて車へと向かう。
私の事を撃ち殺そうとした運転手にドアを開けられたテヒョンは、静かに後部座席に乗り込むと、こっちに来いと言う様に、隣を二度静かに叩いた。

