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北の軍服を着た天使
第1章 Episode 1
「英語は話せるか?」
「あ、はい…!」
そこら辺の恋愛小説の様に❝隣に座った彼から香ったのは私の好きなシャネルの五番…❞という感じには、勿論ならない。何てったってここは、北朝鮮なんだから。
「さっきの言葉、よく言った。」
「え?」
「子は宝、という言葉だ。」
「……意味が分かったんですか?」
運転席に座り直した血の気の多い軍人は、私が変な事をするんじゃないのかと疑っているんだろう。威嚇がてらに左手で銃をカチャカチャと触っているのが、素人の私にでも分かった。
「こちらも急いでたもので。危険な事に巻き込んで申し訳なかった。」
「……へっ、いやっあの…全然、大丈夫です。ていうか、こちらこそ。異国の地で無礼な事を言って撃たれかけたにも関わらず助けてくださってありがとうございます。」
「名前は?」
「ナガレカワ……流川リサ、です。」
「……共和国を是非、楽しんでくれ。」
「あっ……あの!」
「何だ?」
「また、会えますか?」
どうして自分でも、こんな事を言ってしまったのかは分からない。
ただ──今まで付き合ってきた男性と同じ様に頭の中にビビッと電流が走った気がしたのだ。初めて、彼の顔を見た時に。もちろん、その電流の正体が何なのかは分からない。
でも一つ言えるのは、彼がイケメンだからとかそんな理由では無いだろう。もっと人間の…直感とか、第六感とか。そういった物が根本にある感じだと思う。
「会うべき人なら、必ずまた会えます。」
───彼は私の言葉に驚く事なく、今度は真っ直ぐと目を見つめながら今度は流暢な日本語で、そう言った。