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北の軍服を着た天使
第2章 Episode 2
『ニュースをお伝えします。北朝鮮が本日早朝、日本海に向けて弾道ミサイル2発の発射実験をしました。ミサイルは日本の排他的経済水域内に落下したものとみられ、その数時間後、韓国も潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験に成功したと発表した事により、ますます南北の緊張は続きそうです。』
『ミサイルは昨年の軍事パレードの際に披露された物の改良版だと考えられており、先日の日米韓合同軍事演習に対抗しての…』
「ホンマ、北朝鮮もミサイルばっかり作って飽きへんもんやなー」
社長がコーヒーを左手に、カントリーマウムを右手にして、社内のテレビに向かってそんな事を言った。私、流川リサが働く❝ロードスター株式会社❞は大阪に本社を置く従業員が五人ほどの中古車の流通を担う小さい会社だ。
社長が無類の車好きで、日本車の良さを世界に広めたいという熱い思いで立ち上げたこの会社は来年で創業20年を迎える。ちなみに、私は高卒で入社してもう今年で10年目だ。それなのに未だ会社では一番若いのだから、似合いもしない❝朝のコーヒー係❞という昔のドラマに出てきそうな役を貰っている。
「流川も言うてる間に30やろー?焦って結婚したは良いけど、相手が核爆弾作るの趣味やったとかは止めてくれよー」
「いや、そんな男、日本に居ないでしょ…!」
「ハハハッ、そりゃそうやな。…いやー、でもお前もよくキューバやらロシアやら訳分からん所に一人で行くからなぁ…そういう男と知り合う機会、多いやろ?」
「それは偏見ですよ〜」
「おー、そりゃ失敬!」
ペコっとわざとらしく頭を下げてから、椅子を回転させてパソコンに向き合った社長。
小さい会社なのに土日祝は休みだし、残業代もちゃんと付くし、貿易関係で年に一回海外に視察に行った時は経費で全部持ってくれるし、有給もあるし。働きやすさは最高だ。他の従業員4人も全員オジサンだけど、皆、車好きの人の良いオッチャンって感じがして、私は接しやすかった。