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北の軍服を着た天使
第2章 Episode 2
そう、堅苦しく呟くこの男とは、どうしても性格が合いそうにない。
父親は中央委員会のメンバーで、母親は元劇団の歌手……という共和国の中では❝花形家族❞と評される絵に書いた様な家族の元に生まれた李は、18歳の時に国費留学生として北京大学へ行きそこで語学と経済学を学び、卒業してから俺が生まれるまでは北京に本部を置く❝対外経済委員会❞の補佐メンバーとして、役職ばかりで実績の無い老害達を上手に手玉に取りながら、外貨集めの根本をチームに叩き込んだ。
そして、俺が生まれたと同時に❝李の才能を見た誰か❞の計らいにより俺の側に配属され、時には若い父親として、時には年の近い兄貴として耳が痛くなる様な事ばかりを俺に押し付けてきた野郎だ。
でも、李の❝資本主義に通用する外貨の集め方❞は党のメンバー誰もが一目置くほどの物だった。外国語にも精通していて、尚且経済の事にも明るい李を最高指導者が放っておく訳が無い。
俺がスイスのボーディングスクールに8歳から10年間留学をしている間、一緒にスイスに住んではお金の稼ぎ方についてレクチャーをしていた。
そして18歳の誕生日を迎えた日、李の❝粋な計らい❞により配属が決まった三年間の38度線警備の任務を終了して、21歳……初めて李と一緒に中国に行き、共に外貨を稼ぎ出したのだ。
つまり、❝キム・テヒョン❞という男の人生には常に隣に李が居た。きっと李も自分の家族より、俺と一緒に過ごしている時間の方が長いだろう。
それでも、合わないものは合わない。俺が疑い無く、差し入れに貰ったケーキを食べようとすると、それを見て、またも大げさにため息をつく。……でも、こんな事にも慣れていた。
カーテンの隙間から見える木漏れ日と、背の高いビル、そして美味しくて美しい見た目のケーキは日本という国家が共和国との力の差を見せつけてきているのかもしれない。