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恍惚の日々
第1章 誰?
人通りのある所ばかり選んで歩いた。
携帯電話片手に、さも会話してるかのようにも粧いながら。

たくさんの靴音の中に、その靴音がする。
警察に相談に行くべきだろうか。でも、なんの被害も受けていない……

彼との別れの後、この靴音がさりげなく増えているような気がする。

それでも、やはり今日もまた、家にたどり着く前に靴音は消えた。


「あ、また消えた。いつもこの辺りね…寒っ、早く帰ろ。」

正月気分は薄らぎ、スーパーマーケットには節分の豆やお面、柊(ひいらぎ)が陳列される頃になっていた。

帰る道々、スーパーでこの節分セットを買った。
この、得体の知れない靴音の主は、さしずめ鬼。
鬼よけの意味で、今年は玄関扉に括り付けようと思ったのである。


やはり、付き纏われるのは気味が悪い。
何でもいいから、何かのモーションを起こしたかった。



織本かなえ、24歳。
正確には、来月2月10日に24歳になる。

父はサラリーマン、母は保育士、ひとつ下の弟は大学生で春から地元の市役所の職員となる。


私は短大を出て、OLをしている。
大手の生命保険会社で支社の窓口業務。
土日祝祭日が休みで、営業員さんの苦労とは無縁の部署だ。

入社後程なくして、彼が出来たが、何となく物足りなさを感じ、去年の夏に別れた。
今はフリーの身。女友達とお喋りやランチ、小旅行を楽しんだりしている。



ところが、暫く為りを潜めていた靴音は、秋に入った頃から、また頻繁になっていった。



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