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だから先生は頼りない
第2章 爪先
机の上には授業以外でほとんど開くこともない教科書がずらりと所狭しと並び、その傍らには誰にも見られたくないノートが立っている。
引き出しの奥よりも、こういうところの方が母親の目から逃れやすいんだ。
それに手を伸ばし、シャー芯で汚れた焦げ茶色の机に広げ、親指でグッと開く。
今期の初日から始めた日記。
それもダイアリー、なんて格式張ったものは恥ずかしすぎるから普通のノートに。
その日にあった嬉しいことだけを記入する。
ハッピーノートとかいう。
他人にばれたら悶え苦しみそう。
たとえ親友でも。
愛用のシャーペンを手に取り何度かカチカチと鳴らして、白い紙に滑らせる。
ー昼休みに偶然会う。チョークの補充を頼まれて一緒に倉庫まで行った。扉開けてくれて、チョークの位置を教えてくれた。それから、ささくれを抜いてもらった。なんであの人ピンセット持ち歩いてんのー
文章にしてしまうと味気ない。
とん、とシャーペンを置いて前の方を見る。
ー今日は数学がなかったけど、放課後車に向かう先生を見れた。どこかで会議かなー
ー昼休みに図書館に行ったら窓から第二体育館の裏で本堂と一緒に喫煙してる先生を見た。吸ってたんだー
日付は飛び飛びだが、こう見るとストーカーじみている。
ぎしり、と椅子にもたれて足のつま先で壁をタップする。
あ、やばい。
スマホを充電器から引き抜いてバッと前かがみになり、いつも見ている動画サイトを開く。
やばいやばいやばい。
机の端に突いた左腕に額を押し付けて指をフリックする。
三瀬柘榴と検索して一番上の教師ものを親指で選択し、イヤホンを耳に付けて左手を伸ばし扉の鍵をかける。
ドラマの冒頭が流れ出し、濡場に入る前にジッパーを下ろして下着ごとずらし下ろす。
BLドラマなんて女の楽しむものだと思っていた。
動画サイトの広告でその声を聞くまでは。
一時停止したのなんて初めてだった。
その声優の名前を遡ってシークバーを動かしたのも。
それからすぐに検索したら、ボイスドラマばかりが出てきた。
並んでいたのは受け、濡れ、耳責めといった知らない言葉ばかり。
好奇心が悪かった。
一度聞いてしまったらもう、本人そのものにしか聞こえなくて。