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第8章 赤い泪

何も期待しないまま席に着いたお見合いは、思った以上に素敵な人で
「綾子さん」
静かな声で私を呼ぶ原さんは、お見合い写真よりずっとずっと素敵だった。

今まで誰とも恋愛をしないように厳重に見張られていた私のプライベートにおいて
初めて自由に会話のできる親族以外の男性だった。

「綾子さん。私たちは世間では政略結婚に見られる事でしょう。
しかし、幸せになりましょうね」

その言葉にビックリして・・・
なんて。
なんて素敵な人なんだろうと胸が高鳴った。

短い婚約期間の間、私は初めての自由を感じる。

男性と二人きりのデート。
男性と二人きりのドライブ。
男性と二人きりの食事。
男性と二人きりの音楽会。

何もかもが初めてで
何もかもが新鮮だった。

これは本当に閨閥を広げるための政略結婚なんだろうか？
私は・・・
こんなに幸せでいいんだろうか。

原さんは優しく、そして大人だった。

「綾子さんはいつまで私を『原さん』と呼ぶんだろうね。
綾子さんもそのうち『原さん』になるのにね」

そう穏やかに笑うその顔は、もうすぐ私の旦那様になる人。