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3度目にして最愛
第2章 2度目は絶望を
だがしかし、転機の訪れは突然やって来るものだ。
それは職場近くの水城の友人が経営するレトロな喫茶店にてアメリカンコーヒーを会社帰りに飲むのが日課になっていた彼女が、ある時カウンター席で一人縮こまっていたサラリーマンを目に留めた事から始まった。
仕事の話を除けば、人見知りの性格もあって水城は滅多な事で自分から異性に話しかける事はしなかったが、以前鞄から落ちたキーホルダーを拾ってもらった親切なサラリーマンの男と背格好が似ており、偶然な事は起きるもので、二人は同一人物だった。
「あの時はどうも」「いえ、こちらこそ」という話は、あっという間にお互いの職業の話になり、男が口を付けていたコーヒーカップの底が見えてくると、「情けない事に全然仕事の業務内容に慣れなくて...」という新卒銀行員の男の愚痴話になった。
例え好きを仕事に出来ても、社会の歯車となって働く事に息苦しさを感じていた過去の自分を見ているようで、同情は出来ても男の癖に情けないと思う事は水城には出来なかった。
「また会いたいです」と遠慮がちに言った男に水城は自分の連絡先を教えた。
そのうちに高校、大学と一緒だった少しお節介な友人の喫茶店で待ち合わせ、同じアメリカンコーヒーを飲みながら、お互いのプライベートの話も浮上した。
水城の事を「頼もしくて温かい人」と尊敬し、恋愛事には奥手に見えた男は、10回目に会った時には豪勢な花束を抱えていた。
ピンクのガーベラとかすみ草で一杯の花束を渡す時に、「まだまだ小心者ですが、貴方と並んで恥ずかしくない男になりたいです。付き合って下さい。」と言った男の打算も何も無い純粋な告白が水城は嬉しかった。