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第2章 第一部【白桜記】　其の一・高嶺桜

「お願いがござります」
　信頼は応えず、おさとの方の手を掴む。おさとの方はさりげなくその手を外し、両手をつかえて信頼を真っすぐに見上げた。
　おさとの方が聡一郎と名乗っていた頃ならともかく、女として仕えるようになって以来、これほど真正面から信頼に物を言ったことはない。信頼は憮然として、おさとの方を見た。
「また暇をくれと申すのか」
　早くも額に青筋が浮かんでいる。不機嫌を露わにした顔であった。