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第1章 第一部【白桜記】　其の一・山桜

　信頼が聡一郎を〝若年寄〟と呼ぶときはむしろ機嫌は悪くはなく、どちらかと言えば、揶揄するような響きが込もっている。が、いずれにしろ、この年齢の割にははるかに老成した幼なじみにして学友を、信頼はどこかで嫌悪していたような節があった。
　片時も傍を離さぬほど気に入り必要としながらも、一方で烈しく憎悪する―、そんな相矛盾した複雑な心情が信頼の中で渦巻いている。そのことを神ならぬ身の聡一郎は知らない。