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第1章 第一部【白桜記】　其の一・山桜

　聡一郎の主君佐伯信頼(のぶより)はこの近辺を治める国守にして、河北(かわきた)城の城主でもあった。幼時に父信重を喪った信頼はまだ長松丸(ちょうまつまる)の幼名を名乗っていた五歳のときに家督を継いだ。同時に元服して信頼と名を変え、父の遺領と居城をそっくりそのまま引き継いだ。以来十五年、二十歳を迎えるこの年まで、信頼の癇性と放蕩はつとに近隣諸国にまで知られるところであった。