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第10章 番外編【櫻の系譜・弐～水面の月－高嶺桜－】　壱―お千世　　　

　つい先刻、藩主信純がふいに奧に現れ、お千世は信純に差し上げる茶を御休息の間に運んでいたのだ。その途中、うかと手を滑らせて湯呑み茶碗を取り落とすという失態をしでかした。
　何しろ、奉公に上がって半年、お千世はまだ信純にお目通りしたことがない。漸く今日初めてお目見えが叶うという晴れの日だったのだが、この大失敗に沙汰止みになってしまった。