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カクテル好きの男たち
第4章 運転免許返納の男
極力一人で頑張ると言ったものの
こう閑古鳥が鳴くと
秀一にそばにいてもらって
お店で夫婦の甘い会話をした方がいいのかしらと
今夜もひたすらグラスを磨きながら
そんなことを珠代は考えていた。
「少し早いけれど店じまいしようかしら」
店の看板の灯りを落とすのと同時に
ドアが開いて一人の老人が店に足を踏み入れた。
「あ、すいません…もう閉店ですか?」
『お客さんだわ!』
珠代は慌てて営業スマイルを投げ掛けて
「いえいえ、営業時間なんて
あってないようなものですから」
どうぞ、こちらにおかけになってくださいな
珠代はそう言ってカウンター席をすすめた。
「よっこいしょと…」
年配者にはカウンター席は座りにくいようで
着席するのに一苦労していた。
「あの…何をお飲みになさいますか?」
「はて?ここは客を見てバーテンダーが
客に見合ったカクテルを作ってくれると聞いたんだがね」
話を聞けば
どうやらその老人は
運転免許の返納を交番に相談しに行ったのだとか…
「いえね、私なんて、
まだまだ若いつもりなんですけど
家族がうるさくてねえ…
どうしたもんかと交番に相談しに行ったら
交番の婦警さんは『ご自分で判断して』と
これまたつれない返事でしてね」
交番の婦警…
相川良美ちゃんの事だろうか…
「モヤモヤして憂さ晴らしをするのなら
このお店がいいわと婦警さんが教えてくれたので」
やはり、相川良美ちゃんだわ!
あの子、さりげなくこのお店を
宣伝してくれているのね
そんな良美の気持ちに応えるためにも
お客さまには大サービスしなければと思った。