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カクテル好きの男たち
第7章 百合の花
「こら!待ちなさい!!」
繁華街で折愛を見つけた。
またこんな夜遅くまで出歩いているんだわ!
慌てて追いかけたけれど
10代の脚力には到底叶わない。
あっという間に姿を見失った。
『もうこんな生活はイヤだ…』
高校教師の坂下美智子が
校長から生活指導教師の任をいただいて一年。
学校の授業が終われば
夜な夜な繁華街に繰り出して
夜遊びしている生徒を補導する。
とりわけ木下折愛には手を焼いた。
何度も補導をして指導しても
すぐにまた同じように夜遊びするために
夜の繁華街をウロウロし始める。
いたちごっこの生活に
身も心もクタクタだった。
『ストレスが溜まったら遊びにおいで』
そう言って寂れたバーのマスターは坂下美智子を
抱いてくれた。
「ストレスが溜まっているわ…
久しぶりに、あの店に寄って抱いてもらおう」
美智子の足は例のバーを求めて
早足で歩き始めていた。
カチャ…
バーの扉を開けると
バリトンの耳に心地よいボイスではなく
「いらっしゃいませ」と女性の声がした。
「あ…すいません…」
店を間違えたのかと思った。
カウンターの中には例のマスターの男ではなくて
女性がグラスを磨いていた。
「あの…マスターは?」
「あら?ご贔屓さんですか?
御免なさい、訳あって今は
私がこの店をやらせてもらってます」
そうなんだ…
マスターはいないのか…
それならばこの店には用はない。
「じゃあ、また来ます」
そう言って帰りかけようとしたが
「せっかくなんだから
少し飲んでいかれませんか?」
そのようにカウンターの中の女に呼び止められ
美智子は仕方なしにカウンター席に腰を下ろした。