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末に吉をあげる
第2章 書かされた約束
元旦に身嗜みを整えて、いそいそと神社に向かう人の群れが、幼少期から不思議だった。
テレビ越しに見た大勢の寒そうな人の塊は、新年のスタートすら多数派に任せようとしている無責任な生き物に見えた。
「雅も、行きたい?」
そう尋ねた彼女は、それが禁止事項にも関わらず、どこか楽しそうだったのを覚えてる。
十歳の時だった。
「行っても意味ないよ」
そう呟いたら、肩を優しく抱かれた。
テレビの前で、ソファの上で。
「ううん。きっと意味はあるわ」
柔らかな髪と、心地よい匂いと共に、その言葉は忘れられない。
車を駐車場のバーの下を進ませて、出口に近い場所に止める。
シートベルトを外しながら助手席を見て、力なく笑ってしまった。
「なんて顔してるの」
「べっ、別に! 先生……楽しかったかなあって」
絶対違うと思うんだけど。
瑞希のシートベルトを外してやりながら、耳元に囁く。
「行った意味はあったよ」
そのまま耳朶に口づけをして、首筋を撫でる。
肩が上がり、頬が赤くなる。
わかりやすいよ、本当。
「……っ、ならよかったです」
逃げるように降りていく瑞希の背中を眺めてから、ゆっくりと扉を開ける。
一人じゃ入れないくせに、自動ドアの前でもどかしそうに待っている。
「積極的だね」
「ちっ、が……車の中でするかと思ったから」
シたことないのに。
腰に手を回して、中に誘う。
すぐにフロントのよそよそしい香りが鼻をくすぐった。
ホテルのこの香りは、妙に脳にクる。
強壮作用でも含んでいるように。
初めて訪れたそこは、深い茶を色調に、少し落ち着かない赤絨毯で出迎えた。
フロントのインターホンで予約を伝え、傍らのボックスの一つの鍵が開き、中からルームキーを取り出す。
いつも瑞希はこの数分を持て余し、後ろで足をトントンと床に打ち付ける。
「四階だって」
「……はい」
すぐにエレベーターのボタンを押しに行く。
それを待つ沈黙も避けたいのだろう。
若しくは他の客と鉢合わせたくないのか。
機械音がして、扉が開く。
隣の瑞希が小さく息を呑んだ。
出てきたのは七十を過ぎていそうなスーツの老紳士と、まだ成人もしていないであろう青年。
青年は一歩後ろから、おずおずとついていく形で前を過ぎていった。
すぐに乗り込み、ボタンを連打する瑞希を見下ろす。