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末に吉をあげる
第1章 末に吉をあげる
三……二……一……
「ぜろ! 先生ハッピーバースデーじゃなかった。ハッピーニューイヤーですっ」
「明けましておめでとう。二〇一六年最初に発した言葉が間違えてるってなかなかのスタートじゃない?」
テレビでボレロを観て泣いていた俺は、キッチンに向かう背中を睨んだ。
折角テレビの端のカウントダウンに集中して、一番初めに類沢に挨拶できたのに。
舞い上がりすぎたかな……。
ウイスキーの炭酸割りをちびちびと飲む。
二人きりの年末。
去年はいろいろ大変て言うか、俺が意識不明だったからこんなことなかったし。
のんびり特番見ながら酒を飲むとかさあ。
出来たら、成人してから父さんともしてみたかったな。
まだ十九。
初めて飲んだのは類沢の誕生日だった気がする。
「結局今年も先生呼びは抜けなさそうだね」
追加のつまみ、チーズやビーフジャーキーを持ってきながら類沢が呟く。
とはいっても本人は食べない。
俺が欲しいと買ってもらったものだ。
「なんていうか、やっぱ……先生ですもん」
ぎしりと隣に座り、リモコンを持って電源ボタンを押す。
ショーが終わって慎ましく拍手が送られていた会場が暗闇に消える。
ああいう風に、カウントダウンをコンサートとかさ、ライブとかで過ごすってどんな感じなんだろう。
まあ、行かないよな。
この人は。
「流石に外ではそろそろ止めてって思うけど」
「目が気になります?」
「んー……背徳感?」
「聞きたくない……」
「冗談だよ」
だったら逆に呼ばせそうなんだけど。
リモコンを置く些細な音すら響く静かな夜。
なんとなく黒くなった画面を見つめて深く息を吐く。
昼に大掃除-毎日埃一つ許さぬような管理をしている類沢に相応しい言葉か分からないが-をしてから、御節も一段の重箱に綺麗に並べて、特にするべきこともない。
だからこそ何も考えずにテレビを見ていた。
そういえば……
「先生って普段どういう過ごし方してたんですか」
「年末? そうだな……一年の書類を整理して、年明けに提出する資料をまとめて。あと何してたかな」
「仕事しかしてなくないですか」
「忘年会とかね、そういうのは大体三十日までに済むから。大晦日は一人かな。音楽聴いたり、映画借りて観たりとか」