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末に吉をあげる
第2章 書かされた約束

「……先生」
「ん?」
 もぞりと体を反転させて、向かい合う。
 シーツの中は何一つ纏ってないなんて、意識してしまうと火照りそうだ。
「今年もよろしくお願いします」
「ここで言うこと?」
「帰ったらまた言います」
「こちらこそ」
 クスクスと笑い合う。
 新年からなにやってるんだ。
 本当に。
 類沢の頬に微かに残った痕に触れる。
「目立つ?」
「すぐ消えると思いますけど……強く結んでたんですね」
「取れたら興醒めだから。でも、背中の痕の方が深刻だと思うけど」
 数秒で意味に気づき、カアッと熱くなる。
「ご、ごめんなさい。俺っ……爪」
「いいけど。いつになく何ヵ所もやられたなって」
「毎回、してたんですか……?」
「あははっ、心配しなくていいよ」
「うわあ、俺すみませんっ。自覚なくて」
 達するときについ抱きついてしまうのはわかっていが。
 あああ、埋まりたい。
 俯いていると、優しく頭を抱かれた。
「……雅さん?」
「少し寝よう」
「はい」
 そんな声で言われたら、すぐにでも落ちてしまいそうだ。
 静かな部屋で、二人の呼吸だけが響く。
 眼を瞑り、今年の平和を願った。
 フロントで見たあの二人のように、周りなんて気にせずに。
 エレベーターから降りたときの言葉は本音だ。
 きっと類沢が七十でも構わない。
 アラサーを自虐するけれど、きっと何年経っても変わらないと思う。
 逆に、俺は三十までにこの人みたいになれるだろうか。
 到底無理な気がする。
 でも、隣にいることはきっと……

 今年もよろしく、先生。



 眼が覚めると、類沢がタバコを片手に何かを眺めていた。
 覗こうと起き上がると、すぐに気づいて振り返る。
「あ。俺のおみくじですか」
「おはよう。っていっても三時だけど。今読んでて思いついたんだけど、瑞希」
「はい?」
 類沢が指先のペンを揺らす。
「来年の今日、またここの予約取ろうかなって」
 眠気がさあっと引いていく。
 約束。
 一年後の約束。
 トン、と紙をペンで叩いて眼を細める。
「どう思う」
 この人は……
 元日が過ぎても昨日が続いてるみたいだ。
 あのとき何を願っていたかなんて知らなくていい。
 ただ、今は今年の末までの約束を。
「瑞希?」
「そんなの……先生がホテルに呼び出したら俺いつも行くしかないじゃないですか」
 また、来年も。
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