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第1章 蟲に溺れる
私は月の高い深夜、自室のベッドでネグリジェのまま小さな瓶を手にしていた。 両手に収まるほどの大きさで、瓶には何のラベルもなく、蓋は小さく穴の空いたコルクであった。

中には月光を浴びて透き通り、掌へ複雑な影を写す小さな蟲。赤いプツプツのついた背中をうねらせ、瓶ごしの指に触手の生えた口を健気に蠢かせている。
見た目は透明な、一匙掬った寒天のような、少し大きい芋虫である。しかしこれは、私に縁の深い蟲である。

(ご託はいいわ…)

私は瓶の蓋を開け、輝く蟲をそっと掌に乗せた。
芋虫はしばらくモソモソと掌を歩いていたが、目当てのものがないとわかると動かなくなってしまった。
女は唾を口一杯に、懸命に溜めると、蟲のいる掌から腕を伝わせ、乳房の方まで涎を垂らしていった。
愚鈍な蟲はしばらく掌からどうやって降りたものかと思案していた。しかし、目当ての水気を見つけると驚くべき早さで(それでもかなり、ゆっくりではあるのだが)水へ向かって進んでいった。

蟲は唾を嘗めとるように口を動かしながら、同時に腹へ唾を擦り付けるように、体を吸盤の如く密着させて、腕の上へと這っていった。得体の知れない蟲に体を這われる淫靡な感覚と不思議な背徳感。
そして何より、唾液のお返しに塗りつけられる蟲の体液が、皮膚から吸収されて私の粘膜をジワリジワリと苛めていた。

(焦れったい…でも、思い出すわ…)

私はこの蟲と、初めましての関係ではない。実は私は、この蟲の雌をもう一匹、この肉体の中に飼っているのだ。それは、気まぐれで参加した仮面パーティーでのことだった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

私はパーティーで出会った一人の男と意気投合し、備え付けの部屋で楽しんでいた。お楽しみを一度済ませたのあと、男は突然一つの瓶を取りだしこう言った。

「きみ、人外の快楽を得たいとは思わないかね?」

男の肉体との相性はそれなりによかったから、私は交わりに充分満足して、その質問にシャンパンを傾けながらゆったりと答えられた。

「私、男も女も快楽を下さるなら大好きよ。でも、そういう快楽のお友だちと長く付き合っていきたいの。もしその人外の快楽が、お友だちを遠ざけるものだったり、私の身体を壊してしまうものなら、私人間で充分だわ。」

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