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マスター・ナオキの怪店日記
第5章 裏路地で会った男

 明かりの灯らない店のドアを開け、開店中だと間違えて客が入ってこないようにドアに鍵をかけ、カウンター奥の納戸の電気だけをつけて食材を棚に入れる。
 乾物を入れてから次に冷蔵庫へと体を向けると、カウンターの向こうに一瞬黒い人影のようなものが見えた、気がした。
 ドアには鍵もかかっているし、なんといってもドアが開いた音がしていないのだから、誰かが入ってきたとは思えない。
 それに一番肝心な事は、見えた気がした、ということ。はっきり見えたわけではない。
 暗い店内なんて慣れているはずなのに、今夜はめずらしくビビってしまった。たぶん、さっきの男との唐突な出会いが尾を引いているのだろう。
 暗い路地の外灯の下に立っていた男に突然声をかけられる、なんて経験は滅多にあるもんじゃない。あれがもしも知り合いの知り合いなどではなければ話も早々に逃げだしていたかもしれない。
「俺としたことが」
 わざと声に出して自分を笑う。気のせいは気のせいで終わらせてさっさと飲みにでもいくか、とすばやく電気を消して店を出た。





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