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人妻縄人形
第1章 義父に
 八月の二十日も過ぎ、蒸し暑い夕方だった。
 その日の朝、夫の正樹を出張に送り出し、静香は夕食の準備を始めていた。
 突然、ピンポーンと玄関のチャイムが来客を告げた。


「どなたぁ?」


 と、インターホンに呼び掛けていた。


「俺だ、静香さん。正樹はいるかね?」


 夫の父の一樹だった。

「あっ、お義父さま。いま、開けます。」


 すぐに玄関にいき、鍵を開けた。


「お電話下されば、駅までお迎えに行きましたのに。」


 奥へ案内しながら静香が聞いた。


「いや、びっくりさせようと思ってね。いい匂いがしているね。夕飯の支度かな?」


「えっあっ、はい、いま作ってたものですから。お義父さまも召し上がりになりますでしょ?」


 一樹の顔に笑いが広がった。


「あぁ、静香さんの料理は天下一品だからね。ご馳走になるよ。それと二日ほど止めて下さるかな?出張なもんでな。」


 いつものように、一樹は出張中の宿を静香と正樹の家でとるつもり聞いてきた。


「えぇ、お義父さまのお部屋もいつもの通りにしていますから、ごゆっくりなさって下さい。」


 にこやかに答える静香の顔を見ながら、


「あぁ、それはありがたいな。きょうはカレーかな?いい匂いだ。」

 うれしそうに言う一樹の声を静香は、台所に立って、背中に聞きながら、


「ありがとうございます。一人なんで簡単なカレーにしちゃいました。お義父さまの好物で良かったです。私だけじゃ、余っちゃいますから。」


 そうかそうか、と一樹も嬉しそうにうなずいた。
 夕食のカレーを二人で楽しんだ。


「美味しかったぁ。静香さんの作るカレーはうちの母さんのより美味しいからなぁ。」


 嬉しそうにしゃべる一樹を見ながら、静香はいっとき幸せにひたっていた。


「ありがとうございます。いつも、褒めていただいて、作りがいがあります。あの人にも食べて欲しいんですけど、。」


(あの人は、もう食べてはくれないから、、)


 思わず感情がこぼれ、言葉が途切れた。


「まさか?正樹は食べてないのかね?いや、まさか!静香さん、正樹に女が出来たのか?あいつ!」


 否定しようと思ったが、


「いえ、でも、、」


 大粒の涙が一滴、頬を伝った。
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