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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第1章 一つめの恋花 春の夢 其の壱
「―優しい方なのですね」
 しっとりと甘く潤んだ春の夜気の底でほのかに香る花のかおりのような、そこはかとなく甘さとけだるさ、それに愁いを含んだ声が妖しく男の心を揺さぶってくる。
 だが。ハッとして女の顔を見、その白いすべらかな頬が濡れているのを見てしまった清七は愕然とした。
 何故、この美しい女は泣くのだろう。先刻の出来事がよほどこたえたものか。涙に濡れた美しい女の顔に、清七は刹那、心を鷲掴みにされてしまったようでもあった。
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