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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第1章 一つめの恋花 春の夢 其の壱
 女は清七を完全に誰かと勘違いしている。
 清七は戸惑いながらも、そんな女を突き放すことはできず、思わず頷いていた。
「あ、ああ。帰(けえ)ってきたぜ」
「もう、悪い人。どうして、こんなに遅くなっちまったの? 私はずっと、お前さんを探してたっていうのに」
 女は心底嬉しげに笑うと、親の迎えを待ち侘びていた子どものように勢いつけて清七の胸に飛び込んできた。
 その弾みで勢い余った清七が数歩後ろによろめく。
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