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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第1章 一つめの恋花 春の夢 其の壱
 だが、不思議と清七は眼前のこの女を薄気味悪いとも、怖いとも思わなかった。ただただ、女が哀れに思えるだけであった。正気を手放し、現から逃れて狂気の世界へとさまよい歩くほどに、それほどに哀しいことが恐らくは彼女を襲ったのだろう。
「ああ、お前さん、やっと帰ってきてくれなすった。慎太郎がいなくなっちまって、お前さんまでが帰ってこなかったら、私は一体どうしたら良いのかって、いつも途方に暮れてたんだよ。ねえ、お前さん、慎太郎はどこに行っちまったんだろうねえ」
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