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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第11章 四つめの恋花 山茶花~さざんか~ 其の壱
 昔がどうあれ、今が落ちぶれていたのでは、どうしようもない。逆に、昔は立派だったのだと強調すればするほど、殊更、今の落ちぶれた身の惨めさが際立ってしまうことになる。
 だから、千汐は普段から昔語りなど一切しなかったし、自分で過去を振り返ることもしなかった。大店のお嬢さまとして気随気儘に過ごした十六年間は、とうに過ぎ去った夢物語、いや、あの我が儘で人を思いやることすら知らなかった小生意気な娘は、恐らくは千汐ではなく別の人間だったのかもしれない。
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