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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第11章 四つめの恋花 山茶花~さざんか~ 其の壱
あの日以降、千汐は母親の顔を見ることさえ煩わしくなった。確かに当時、三十半ばであった母は美しかった。肌理の濃やかな膚は吸い付くようで、濡れた唇は紅椿を彷彿とさせ艶やかだ。冴え冴えと煌めく双眸は、不思議な光を湛え、男の心を捉えて離さなかった。
そんな母であったからこそ、父もまた好き放題をさせていたのだ。父が母の素行を見て見ぬふりを通してきたのは、何も自分が先代に見込まれた聟養子だという己れの立場を慮ったからではない。ただ、純粋に母に惚れていたのだ。
そんな母であったからこそ、父もまた好き放題をさせていたのだ。父が母の素行を見て見ぬふりを通してきたのは、何も自分が先代に見込まれた聟養子だという己れの立場を慮ったからではない。ただ、純粋に母に惚れていたのだ。