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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第13章 山茶花~さざんか~ 其の参
夕陽が安平太の皺深い顔や、庭先に群れる芒の穂をやわらかな色に染め上げている。
「安平太。私には逢いゆかねばならねえ女がいる。多分、そのひとは私の訪れを首を長くして待っているに違えねえ。今頃、どこで何をしているのか。約束を違えた不実な男だと私をさぞ恨んでいるだろう」
「―」
安平太は黙って、ただ曽太郞の言葉に耳を傾けている。昔から、そうだった。口うるさい両親を何かと宥め、うまくとりなしてくれるのは、この大番頭の役目だった。
「安平太。私には逢いゆかねばならねえ女がいる。多分、そのひとは私の訪れを首を長くして待っているに違えねえ。今頃、どこで何をしているのか。約束を違えた不実な男だと私をさぞ恨んでいるだろう」
「―」
安平太は黙って、ただ曽太郞の言葉に耳を傾けている。昔から、そうだった。口うるさい両親を何かと宥め、うまくとりなしてくれるのは、この大番頭の役目だった。