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こころから
第7章 久美子3
 最近はもうめっきり運動しなくなった。
たまに気が向いたときに、一駅分を歩くくらい。
五つ年上の夫が四十歳を越えたあたりから、
ゴルフには行くのに登山を億劫がるようになった。
かと言って、じゃあ私ひとりで行ってくる、
と言うと、夫はいい顔をしなかった。
それで結局、私も登山をしなくなってしまった。

 エレベーターは途中のフロアで停止したまま、なかなか降りてこない。
昔なら、もどかしくなって階段を駆け上がってるな、と思いながら、
今の私は、エレベーターが降りてくるまでは、
一歩もここを動くつもりはない。
しょうがないのよ、
下半身に負荷がかかるとおしっこ漏れちゃうんだもの、
なんて自嘲めいた言い訳をする。

 坂井くんなら階段駆け上がるのなんて余裕だろうな。
一段飛ばしでも大丈夫なんだろうな。
気づけばそんなことを考えていて、
何でどこから坂井くんが出てきたのよ、と腹が立った。
若さを羨むなんてしたくない。
五十三年生きてきたから、
私は五十三歳なのだ。
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