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こころから
第10章 直人5
 打合せに少し熱が入っていたのは確かだ。
目の前の書類の数字に指差すたびに、
椅子が近づいていくのを自覚していた。
それはたぶん、牧原部長だってわかっていたはずだ。
ぼくはさらに遠くの数字に指差すためにぐいっと前に出た。
そのとき、ぼくの膝頭が牧原部長の太ももに押し当てられる恰好になったのだった。

 言い訳がましいが、そこまでするつもりはなかった。
と言うより、わざとそこまでする勇気はぼくにはない。

 膝頭が触れた瞬間、
牧原部長がわずかに緊張したように感じたのは気のせいだろうか。
それはどうかわからないが、
驚いたことに、牧原部長は動かなった。
少し体を捻るだけで、簡単に太ももからぼくの膝は離れるのに、
そうしなかったのだ。
打合せに集中していて気づいていない、
という可能性が捨てきれないのはわかる。
中学生の恋愛か、と笑われようとも、
それでもぼくは舞い上がってしまうくらい嬉しかった。
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