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あの海の果てまでも
第4章 新月の恋人たち 〜新たなる運命の扉〜
…それから暁は朱が淹れた湯を注ぐとふわりと花弁が開く綺麗な薔薇の花茶をゆっくり楽しみながら、ロンの身の上話を聴いた。

「…で、俺もそのままここに居着いたんだ。
…船長がお前はここに残って藍に付いてやれ。
すぐ船酔いするヤツは船の仕事は向いてないからクビだなんて言いやがってさ。
まあ、あのオヤジ、藍が心配で堪らなかったんだろうな。
俺もなんだかこいつを放っておけないな…て気持ちもあってさ。
…それに、上海に戻るより倫敦の方が確実に稼げるからな。
そしたら家族に沢山仕送りしてやれる。
で、しばらくはアルフレッドの家に世話になって、それからアルフレッドの知り合いの雑貨店に住み込みで働かせてもらうようになったんだ。
そこの奥さんが元教師で、夜は俺に英語や数学を教えてくれた。
小さな男の子もいて、賑やかで楽しかったよ。
オーナーも優しいひとだったしな。
俺を本当の家族みたいに受け入れてくれたんだ」

「…そうだったんですか…」
…異国に来て、ともすれば孤独な思いに囚われてている自分をふと鑑みる。
大紋という頼りになる恋人に連れられ、英国に渡った自分など、よほど甘やかされているような気がして、暁は恥ずかしくなった。

「…私はどれだけロンに助けられたか分かりません。
アルフレッドは留守勝ちでしたし、心細い時には必ずロンが側にいてくれました」

静かに語る朱を、ロンは眩しげに…微かに切なげに見上げる。
「…アルフレッドに頼まれたんだ。
『俺がいない時に、お前が藍を守ってやってくれ』てさ。
…ああ、藍は俺みたいな男前の騎士に守られて、幸せなお姫様だなあ」
朱がロンの頭を軽く叩く。
「誰がお姫様ですか。
大体、図々しくないですか?
自分のことを男前だなんて」
「だって事実だろ」
「全く、貴方はいつもふざけてばかりなんだから…」

肩を竦め、新しい茶葉を取りにゆく朱のしなやかな美しい後ろ姿を見遣り、ロンは独り言のように呟いた。

「…そう。
…俺はお前を守る騎士でいいんだ…ずっと…」


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