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あの海の果てまでも
第4章 新月の恋人たち 〜新たなる運命の扉〜
『…暁。
お前と春馬が愛し合っていることに衝撃を受けなかったといえば嘘になる。
私には二人の恋が微塵もわからなかったからだ。
けれど、今考えると、春馬がお前を愛していたことは明白だった。
春馬の隣にはいつもお前が居た。
春馬の視線の先にはいつもお前が居た。
春馬と居るお前はいつも幸せそうな貌をしていた。

…だから、気づくべきだったのだ。
春馬が絢子さんと結婚をした時、不自然なくらいにふたりが疎遠になったことを。
何より、お前が寂しそうな苦しそうな表情をしていたことを。
…暁。
辛い思いをしていたのだね。
誰にも言えず、ただ自分の胸に仕舞い込み、私には笑顔を見せてくれていた…。
何も気づかなかった愚鈍な私を許してくれ。

…けれど一方で、今回お前たちがしでかしたことは、決して良いことではないのだと、やはり私は言わなくてはならない。
なぜならば、春馬は結婚をしていて、法律的に認められている妻の絢子さんがいる。
それは、紛れもない事実であり現実だ。
お前たちふたりは、身重の絢子さんに今、この上ない悲しみを与えているのだ。
日本の社交界に於いて、この前代未聞とも言えるスキャンダルの渦中に、絢子さんは一人置き去りにされている。
その現実と、お前たちがしでかした罪の重さを、お前たちは生涯受け止め、罪を償っていかねばならないと私は思う。
こんなこと私が言わなくとも春馬は承知しているだろう。
誰よりも優しく他人を思い遣るお前も…。
寧ろ、誰よりも苦しい思いをしているのは、お前かも知れない。
…けれど、その苦しみを背負いながら、お前たちは生きてゆかなくてはならないのだ。
ひとから幸せを奪うとは、そういうことなのだ。

…ただ、私は心からお前に伝えたい。
春馬とともに、絢子さんの苦しみと悲しみを生涯背負いながら、償いながら、それでもやはり、ふたりで幸せになって欲しいと。
非常識なことは承知している。
けれど、私は願わずにはいられないのだ。
暁、お前には誰よりも誰よりも幸せになって欲しい。
そのために私ができることはなんでもしよう。
なぜなら、お前は私の大切な愛おしい弟だからだ。
…いや、私がお前を愛しているからだ。
最愛のお前には、必ず幸せになって欲しいのだ』

…兄さん…!

兄の強く激しく…けれど温かな大きな愛が、暁を抱きしめる。

暁は泣きながら手紙を読み続ける。





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