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第2章 翡翠の肖像と悪夢の障壁

言ってる事とやってる事が全く違うとはこの事を言うんだろうとマーカスは常日頃から思っていた。
散々しゃべり倒した挙句、巨漢は妻の手料理のミートパイを食べに帰宅した。

ふぅ…ようやく解放されたか。
本当に疲れる。
マーカスは巨漢の話しのおおかたは聞き流していた。
うん…うん。そうか…など相槌など適当にして誤魔化していた。
ああいう性格の人間は家では無口な方だと決まっている。
家でしゃべっても大概は無視されるのがオチだと自分でも気づいている。
誰かに自分の話しを聞いてもらってウサを晴らすというかストレスを発散して承認欲求を満たしたいんだろう。

ドーナツショップの若い女性店員がふぅ…とため息を漏らしながら巨漢の食べ終わった食器などを片付けていた。
まるでやっと帰ったか…と言わんばかりだが、かろうじて抑えている様子。
女性店員とマーカスは目を合わせると両肩を挙げて手を左右に開いていた。
マーカスもうんうんと首を縦に振りながらそれに習った。

マーカスはコーヒーをひとくち飲むと脇に抱えていた今日付の新聞を広げてニュースなどを見ている。
最近はどうだい？景気は？
マーカスは女性店員に話しかけた。
まあまあと言ったとこね。
あんな事件があったあとにしては、朝から入っているほうよ。
こんな田舎町でもあんな物騒な事件が起きるとはね…
街じゃ話題よ…
女性店員のジェシカはそう呟きながらキッチンへと入っていく。

パトロールや聞き込みと言っても世間話をするようなものだ。
この街じゃ皆んなが顔見知り。
他の街から見知らぬ人がくるだけで話題になる。
田舎町とはそういうものだ。
しかし、そんな話しなど聞かない。
街の情報はどんな小さなことでも街中に筒抜けだ。

まさかこの街の住人の誰かなのか…？まさかな。
聞いたと言えば数十年も昔にイタリアからの移住者の家族がこの街にやってきたことくらいだろう。
それ以来、他所からは誰も来ていない。

マーカスがこの事件に躍起になっているのには理由があった。
ある事件の捜査中に相棒だった女性警官が殉職した。
女性警官のジェイドはマーカスに内緒で捜査をしていた。
ある女性(ジェイドの妹)が謎の男からのストーカー被害に悩まされており、
ジェイドがその女性の相談を受けていての事故だった。
(妹から相談)ジェイドも殉職
マーカスは自分自身を責めた。