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キラーアイドル 特別編
第1章 逃亡犯
わたしには面倒を見切る余裕はありません。わたし自身がネグレストなので。学生時代はいつも、死にたいとSNSから数少ない友人にDMを送っていました。
そんな暗いDMばかり送るわたしに友人は避けていきました。遠ざかっていきました。唯一無二の親友だけが、わたしに寄り添ってくれました。優しく声をかけてくれました。
わたしは陰ながらいつも見守っているよ……。
アサミを応援しているよ……
わたしは歌いながらステージに出ていきます。
ギターの響く音に合わせるように、声を甲高く響かせます。今日も喉の調子はとても良い。
こんなわたしでも得意なことがありました。
歌とダンスだけは人々の目を引きつけるものが、幼少期から備わっていました。特に歌は人よりもずっと得意でした。しかし、それにふさわしい笑顔は備わっていませんでした。気持ちと心だけが正反対のわたしです。

コンサートが終わったとき、1番ホッとします。一気に駆け抜けた感覚があります。今日一日、バレずに過ごせたことにほっとしています。しかし、家の玄関に帰るまでは気は抜けません。常に不安を抱えたままです。解放してはいけません。わたしは薄茶色のぬいぐるみのような色の帽子を深くかぶり、サングラスをして、エリの高いコートで自分の姿を隠します。颯爽と足早に歩きます。

先程まで、アイドル活動していた頃の自分を思い出していました。
今は違います。状況が変わりました。身を隠さなければならない存在です。

「来栖アサミだな……?」
いつの間にか数人の男性に囲まれてしまいました。気づかれてしまいました……。今までがんばって、バレずに過ごしてきたのに……。肩を落としながら、「はい……そうです。」と答える。アイドルをやっていてはいけない人間。無価値な人間。人々に勇気や希望を与える立場には向いていない。わたしは拘束されました。

名前ではなく「番号」で呼ばれる人間。アイドル活動を休止しなければならない理由があります……。
わたしの母は施設に入っています……。そう、普通の施設とは異なる施設です。わたしも施設に入ることが避けられませんでした。
冷たく淡い光が廊下を照らします。カツ……カツ……キィ。
「入れ!48号」
狭い重苦しい部屋に案内されました。
冷たい空気が肌を包み込みます。
冷たい目でこちらを見つめる監視官が小窓から覗いています。施設内は静寂です。
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