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幸せのかたまり
第1章 幸せのかたまり

まだ半分しか覚醒していない耳に、かすかな、ギョリ…ギョリ…という音が聞こえた。小さな貝殻を擦り合わせるような静かな音だ。
麻結美《あゆみ》は、膝の上に落ちていた文庫本を取り上げてテーブルの上に置き、軽く背伸びをしてから立ち上がった。
傾き始めた日差しのオレンジ色をした薄闇が入り込んだ部屋は、一瞬、景色が違って見え、自分の部屋ではない、どこか全然知らない場所に見える。
静かすぎるせいかもしれない。
特にすることもなかったので、何となく途中まで読みかけだった恋愛小説を読み始め、数ページも行かないうちに、キッチンの椅子に腰掛けたまま眠り込んでしまったようだ。
またさっきの、ギョリ、という音がした。その音の主は窓辺に置かれた鳥籠の中にいた。
「こゆきも居眠り中なのね」
そっと近づいて優しく話しかけた相手は麻結美がこの部屋で一緒に暮らしているオスのボタンインコである。こゆきという名は、真っ白な羽色が雪を連動させたので小雪《こゆき》。
そのこゆきは、居眠りをしているとか、遊んでいる時以外で静かに寛いだ気分の時に、上下の嘴をこすり合せて、ギョリ、という音を立てた。だから彼がこの音を出しているということはリラックスして満ち足りている証拠である。
麻結美《あゆみ》は、膝の上に落ちていた文庫本を取り上げてテーブルの上に置き、軽く背伸びをしてから立ち上がった。
傾き始めた日差しのオレンジ色をした薄闇が入り込んだ部屋は、一瞬、景色が違って見え、自分の部屋ではない、どこか全然知らない場所に見える。
静かすぎるせいかもしれない。
特にすることもなかったので、何となく途中まで読みかけだった恋愛小説を読み始め、数ページも行かないうちに、キッチンの椅子に腰掛けたまま眠り込んでしまったようだ。
またさっきの、ギョリ、という音がした。その音の主は窓辺に置かれた鳥籠の中にいた。
「こゆきも居眠り中なのね」
そっと近づいて優しく話しかけた相手は麻結美がこの部屋で一緒に暮らしているオスのボタンインコである。こゆきという名は、真っ白な羽色が雪を連動させたので小雪《こゆき》。
そのこゆきは、居眠りをしているとか、遊んでいる時以外で静かに寛いだ気分の時に、上下の嘴をこすり合せて、ギョリ、という音を立てた。だから彼がこの音を出しているということはリラックスして満ち足りている証拠である。

