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幸せのかたまり
第1章 幸せのかたまり
彼が居なくなり、一人になった麻結美の話し相手はインコのこゆき。
三年前、生まれたばかりのまだ毛も生えていないピンク色の小さなヒナから育てた。だから手乗りどころか手の中で寝てしまうほど麻結美に慣れて心を許している。
でもそれは麻結美に対してだけ。ボタンインコはとても賢く、人を識別するので、彼に対してはいつまで経っても懐かなかった。迂闊に手を出すと噛まれた。
「俺に焼きもち焼いているのかな」
「さあ。こゆきに聞いてみようか」
「聞くって、インコに言葉なんて分からないだろう」
「そんなことないよ。ねえ、こゆき」
彼と交わした他愛のない会話。思い出と呼ぶにはあまりにも儚い朧げな記憶。
またギョリっと音がした。見るとこゆきが薄く目を閉じて嘴をもぐもぐさせている。また微睡んでいるようだ。
なんだか幸せそう。
こゆきが作り出す小さなギョリっという音を聞くと、いつも平和で優しい気持ちになる。
鳥かごの扉をそっと開け、フワッと膨らんだ小さな体に触れた。
それは夢のように柔らかくて暖かで、麻結美は、何だか幸せのかたまりみたいだと思った。
小さな幸せがフワッと集まった小さな小さな暖かいかたまり。
優しく手の中に包み込んでみると、その幸せがじんわり流れ込んでくるような気がした。
𝑭𝒊𝒏
三年前、生まれたばかりのまだ毛も生えていないピンク色の小さなヒナから育てた。だから手乗りどころか手の中で寝てしまうほど麻結美に慣れて心を許している。
でもそれは麻結美に対してだけ。ボタンインコはとても賢く、人を識別するので、彼に対してはいつまで経っても懐かなかった。迂闊に手を出すと噛まれた。
「俺に焼きもち焼いているのかな」
「さあ。こゆきに聞いてみようか」
「聞くって、インコに言葉なんて分からないだろう」
「そんなことないよ。ねえ、こゆき」
彼と交わした他愛のない会話。思い出と呼ぶにはあまりにも儚い朧げな記憶。
またギョリっと音がした。見るとこゆきが薄く目を閉じて嘴をもぐもぐさせている。また微睡んでいるようだ。
なんだか幸せそう。
こゆきが作り出す小さなギョリっという音を聞くと、いつも平和で優しい気持ちになる。
鳥かごの扉をそっと開け、フワッと膨らんだ小さな体に触れた。
それは夢のように柔らかくて暖かで、麻結美は、何だか幸せのかたまりみたいだと思った。
小さな幸せがフワッと集まった小さな小さな暖かいかたまり。
優しく手の中に包み込んでみると、その幸せがじんわり流れ込んでくるような気がした。
𝑭𝒊𝒏