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幸せのかたまり
第1章 幸せのかたまり
 一緒に住む理由が消え失せてからも、しばらくの間、彼はこの部屋でグズグズしていた。しかし、愛情があろうと無かろうと、夕食後の歯磨きみたいに習慣になってしまったセックスのあとに、何気なく麻結美が口にした「いつまでここにいるの」という言葉によって二人とも魔法が解けたように我に返り、すべてはずっと前に終わっていたことに遅ればせながら気がついた。

 まるで居眠りしている間に映画の本編が終わり、エンドロールが流れ始めてからやっと目が覚めた時のように。

 だから彼が出て行く時も、惜別の涙や感動的な台詞はなかった。「さようなら」も今さらな気がしたから、彼が場違いな感じで「じゃあ」と手を上げ、麻結美が「うん」と答えただけでお終いだった。

 ドアが閉まってジ・エンド。感動の拍手は無し。

 失恋の痛みなどこれっぽっちも感じなかった。痛みは無かったが彼が出て行ったことはある後遺症を麻結美に残した。何もやる気が起きないのだ。昼間の仕事中は以前と何も変わらない。でも自分の部屋に帰ってきたとたん、身体がだるくなり気力がどこかへ行ってしまう。

 日曜日には部屋から出なくなった。今日もそうだ。せっかくのよく晴れた休日なのに、いつまでもグズグズとベッドの上で毛布にくるまり、十時を回ってからやっと起き上がる。

 そしてぼうっとしたまま部屋着に着替え、昨日の残り物で適当に遅い朝食を済ませてからダラダラと洗濯を終わらせると、すでにお昼近い時刻になっている。

 どこかへ出掛ける気も何をする気も起きなかった。
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