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覚えて…ない…の…
第1章 覚えてないの…
そう、昨夜のあの女…
…俺はカウンター席だけの小さなバーをやっている。
元々はオヤジがラーメン屋をやっていたのだが、約10年前に死んで、俺が引き継ぐカタチでバーに改良し、現在に至っているのだ。
そしてあの女は、近くにある某大手新聞社のこの地方支社に最近配属された新聞記者であった…
その新聞社は、入社してから必ず約4、5年は地方支社に配属される習わしらしい。
そして、その支社の配属されてくる若手新聞記者はなぜか、皆、その配属期間は常連になっていた。
『支社長に薦められたの…』
あの女も…
初めての夜にそう云った。
それからは、週1、2回の頻度で訪れる様になる。
そして昨夜…
『赤ワインをボトルでちょうだい』
カウンターに座るなり、そう言ってガバガバと赤ワインを手酌で飲み始めたのである。
ふ、ヤケ酒なのか?…
俺は他のお客の対応をしながら、あの女を改めて観察した。
まあまあな、いい女ではある…
ハッキリ訊いた訳ではないが、多分、26~28歳であろう、なぜなら、この地方支社が二つ目と云っていたから…
そして、どことなく、某女優に雰囲気が似ている…
だが、女の目力からは聡明さと気の強さが伺え、付け入る隙的なモノは全く感じさせなかった。
そんなあの女が、昨夜は一転、ヤケ酒気味に一人赤ワインを飲み続けていたのである…
「マスター、もう1本ちょうだい」
「あ、うん、でも大丈夫なのか?」
ペースも早かった。
「うん、大丈夫よ、マンションも隣だし…
それに今夜は飲まないとやってられないのよ」
「そうか…
ま、そんな夜もあるよな…」
だけど、隣のマンションに住んでいるとは、思いもよらなかった…
だが、隣ならば大丈夫か…
しかし…
大丈夫ではなかった…