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覚えて…ない…の…
第1章 覚えてないの…


 しかし…

 大丈夫ではなかった…

 女は、2本目の半分近くを飲んだ時点で、突然、カウンターに突っ伏し、ダウンしてしまったのである。
 
 やれやれ…

 酔い潰れる客はごく稀にはいるのだが、久しぶりではあった。

 ま、いいか…

 吐かないだけマシか…

 とりあえず自力で目覚めるまでは、読み掛けの小説でも読みながら暫く待つ事にする。

 午前4時少し前であった…


「……う……ぁぁ…ん………」
 約1時間後、女は気づく。

「……ん…ぁ、ぁぁ…」

「起きたのか?」

「…ん…ぁ、そうか…」
 少し目を泳がせてそう呟き、ヨロヨロと立ち上がる…
 のだが、ダメであった。

「あ…歩けなぁぃぃ……」

「隣だっけ?…」

「うん、405号室ぅ…」

 仕方なく俺は女をおぶり、隣のマンションへと向かう…

 まぁ、こうなる事はある程度予想はできたのだが…
 本当に下心は無かったのだ。

 それに…

 基本的には、酔っぱらった女とはヤりたくはないから…


「ほら、着いた、カギは…」
 ドアを開け、背負いながら部屋に入る。
 部屋は典型的な1LDKで、やや広めなリビングと寝室という造作であった。

「よっこらせ…」
 いくら痩せているとはいえ酔っぱらった女は重かった、そしてなんとかベッドに寝かせる。
 
「じゃ…な…」

 
 本当に、下心は無かったのだ…


 本当に…



「ふーん…そのまま帰るんだぁ…」
 すると酔っ払っているくせに、背中越しから女がそう呟いてきたのだ。

 俺は振り向く…

 すると、あの女の目が…

 欲情で濡れていた…


「ふぅーん……」

 そして上体を起こし、俺を見つめ、舌先を出して、自らの唇を舐めてきたのだ…

「あっ…んんっ……」
 俺は…
 その瞬間、スイッチが入ってしまい、ベッドに飛び込んでいく。

 無意識な衝動であった…

 そしてその時の俺はオスの欲望という本能に、一瞬の内に支配されてしまったのである…


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