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覚えて…ない…の…
第1章 覚えてないの…
ブー、ブー、ブー…
そんな昨夜を想い返していると、また、スマホが着信した。
あ、またあの女からだ…
「ねぇ……ジッポー、取りに来なよ…」
女はそう囁いた…
「部屋はもちろん…分かってるわよね…」
どうやら電話の向こうで笑っているみたいである。
「あ…うん…わかるさ…」
「じゃ、鍵を開けておくから…」
そして女は、そう言うなり電話を切った。
誘い…なのか?
いや、さすがに昨夜の今朝だ…
それはないだろう。
それに、さっきの、最初の電話のあの剣幕の勢いである…
怒り、苛つき…しか感じられなかった。
「くそ、仕方ねぇか…」
思わず独り言を呟いてしまう。
あのジッポーライターは無くせない…
俺にとっては大切な存在であるのだ。
「ふうぅ…」
俺は吐息を漏らしながら立ち上がり、眠気を醒まそうと軽くシャワーを浴び、女のマンションへと向かう。
ガチャ…
女が言っていた通り、玄関の鍵は空いていた。
「とうぞ、上がって…」
「………」
「いらっしゃい…」
リビングに入ると女はソファに座っていた。
そのリビングテーブルの上には、くしゃくしゃになった『Marlboro』の紙箱とジッポーライターが無造作に置いてあった、そして俺は、長居は無用とばかりに、それを手に取り…
「じゃ…」
そう一言告げ、踵を返す。
「ふーん…もう…帰るんだぁ…」
女はまた、背中越しにそう言ってくる。
「ん…」
俺はその声に後ろを振り返った。
「わたしさぁ…」
すると、そう囁きながら、気怠そうにソファの背もたれにもたれかかる。
あ…
改めて女を見直すと、おそらくは男物であろうダボダボな白いワイシャツを1枚羽織っているだけであったのだ。
そして…
「昨夜の…アレさぁ…」
そう、呟いてきた。
「……アレ?…」
なんだ…
ザワザワしてくる。
「うん…アレ…」
女は…
女の目が…
濡れている…
一気に心が騒めいてきた。
「わたしさぁ…」
すると、そう囁きながら…
「え…」
ソファに深く座っている女の膝がゆっくりと持ち上がってきたのだ…
「わたしさぁ…昨夜のアレさぁ…」
そしてその膝はソファの上で完全に立て膝の姿勢となり…
「あ…」
え、ま、まさか…