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波乗りの浜
第1章 波乗りの浜
 ①

「ふうぅ、やべぇや…」

 今日は急ぎ帰省するからと、午前中で仕事を切り上げて…
 帰省の途中の帰り道の、いつものポイントの海で波乗り、サーフィンをしていた。

 つまり、寄り道である…

 俺は単身赴任で、いや、独身だから単身赴任とは云わないのか?…
 某県の、海岸沿いにある工業団地内の、ある一つの自動車メーカーのシステムエンジニアをしている。

 実は…
『お父さんが急性心筋梗塞で倒れたの…』
 朝一番に、母親からそんな緊急の電話が入ったのだ。

『あ、でも、すぐに処置できたから、命に別状はないんだけどね…』
 その言葉にホッと胸を撫で下ろす。

『うん、だけど、都合付けて帰るよ…』

 今年の夏のお盆休みは仕事が多忙過ぎて返上して仕事をしていたのと…
 実は、絶妙な位置に台風が接近し、最高のウネリと波をいつものポイントにブレイクさせてくれたので、仕事多忙プラス、波乗り三昧で帰省しなかったのであった。

『アンタもさぁ、もう30歳半ばなんだからさぁ、お嫁さんを…』
 帰省するといつも母親はそう、口癖の様に、いや、口煩く云ってくるので本音は帰省したくなかったのだ。

 それにまだ結婚する気も、相手もいないかったし…
 まだまだサーフィン、波乗りの魅力に取りつかれていたから、本当にそんな母親の念仏の如きの口癖は聞きたくはなかったという理由もあった。

 だが、父親が倒れたのだ…

 これは一大事であり、ちょうどお盆休み返上の仕事も一段落したところでもあったし、連休の代休の理由に十分なったので…
 急遽、お見舞いを兼ねて帰省する事にしたのである。

 ところがである…
 また、再び、お盆休みの時期と同じ位置に台風が接近してきていたのだ。

 だから、つい…

 帰省途中の帰り道に、いつものサーフィンポイントをチェックしてしまった。

 チェックだけ…

 見るだけ…

 それがいけなかったのである…

 最高の波が…ブレイクしていたのだ。

 そして、今日は月末の平日のお昼過ぎ…
 いつものポイントは、ただでさえシークレット的な海岸という事もあるせいなのか、無人であった。

 
『サーファーを殺すには、波が無ければいい』
 その真逆で、良い波がブレイクしていて、しかも無人であったならば…

 波乗りをしない訳にはいかなかった…




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