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いい女…
第1章 いい女…

「だろう、間違いないよなぁ…」

「うん、多分…だけどそれが?」

「違ぇよ、俺の中では赤いアルファロメオスパイダーに乗る女の人は絶対にいい女な訳でぇ…」

「それはお前一人の思い込みだよなぁ」

「違ぇよ、まず、間違いなくいい女、いい女に決まってんだよ」

「なんで?」
「だってよ、じゃあさ、自分に自信の無い女の人が赤い外車のオープンカーに乗るか?」

「あ…うん…」

「だって、そこらにサァっと乗るだけで注目されんに決まってんだぜっ」

「確かにコンビニに乗り着けてきたら、絶対見るわなぁ」

「だろっ間違いなくいい女に決まってんだよぉっ」

「じゃこの店の中に…」

「うん、間違いなく…いるはずだ…」
 そう彼らは話し、おそらくは店内を見回し始めた様な気配がしてきた。

 そしてわたしはドキドキとしてきてしまう…
 なぜなら…
『アルファロメオスパイダーヴェローチェ』は、わたしの愛車だから…
 そして、彼らの視線がわたしの背中で止まり、痛い位に見つめてきたのを感じてきた。

 あ、ヤバい、見つかってしまった…

 あのクルマは…
 死に別れた元夫の遺産の愛車であり、わたし自身、散々壊れても直している思い入れのあるクルマなのだ。

『赤いスパイダーに乗って髪の毛をなびかせる女って、堪らないんだよ…』
 それが彼の口癖であった。

 だから、今も…
 髪を伸ばしている…

「………」
 彼らが、わたしの後ろ姿に注目しているのが、ヒシヒシと伝わってくる…

 ああ、ヤバい、どうしよう…
 絶対に振り向けないや…

 今日は仕事の移動中だからスーツ…
 昨日、美容院に行ってきた…
 化粧はさっき直したし…

『絶対ぇいい女に決まってんだよ』
 さっきの会話の言葉が脳裏にこだましている…

 こんなプレッシャーはいつ以来だろうか…
 もう書類整理も終わったし…
 ああこんな事なら社用車にすればよかった…

 夏の終わりの爽やかな風に当たりたかったから、敢えて自分の愛車にしたのだが
『薮蛇』になってしまった…

 どうしよう、立つに立てないや…

 自分に自信が無い…訳ではないが、果たして彼らの期待に添えられるのか?…

 背中が壁に…

 そして、カチカチに固まってしまう…


 どうしよう…

 これも…

 全部、夏のせい…


 もう夏も終わりだというのに…


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