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  バガテル第25番イ短調  (エリーゼのために)
第1章 エリーゼのために…
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 「え、あ、い、いつもって…」
 僕はドキンとして、そう呟く。

「あ、もう、バカ、分かってるくせに、意地悪なんだから…」
 すると舞香ちゃんはそう言って、向こうに行ってしまう。


 え、あ、分かってるくせにって…

 そう、本当は分かってはいた。

 あのバレンタインのチョコレートと一緒にラブレターを貰った時から…
 舞香ちゃんの気持ちは分かっていたし、伝わってはいた。

 そして、約半年が過ぎた今も…

 いや、あれから今までも、僕の事をずうっと気にしてくれていた事も…

 気づいていたし、分かっていたんだ。

 ただ…

 今までは葵さんがいたから…

 いや、葵さんという存在が僕の心の中の全てであったから。

 葵さん以外に考えられないし、入る余地も無かったから…

 そして僕という存在自体が、ほほ全部、葵さんのおかげで…

 勉強にしろ…

 この異性への想い…

 性的な想い…

 性衝動、嗜好にしろ…

 全てが、100%葵さんからの影響であり、おかげであったから…

 舞香ちゃんの存在感は全く入る余地、隙間が無かったんだ。

 だけど…

 今…

 僕のポッカリと空いた心の隙間、いや、大きな穴に…

 スッと入ってきたんだ。

 そんな昨日貰った手紙による葵さんの真実の真相に、あれほど激しく動揺し、悲しみ、哀しんでいたくせに…

 リセットなんて出来る筈が無いなんて絶望感に陥っていたくせに…

 本当に調子が良いけれども…

 僕の心の隙間に舞香ちゃんという存在感が、スッと入ってきたんだ。

 そんな僕は最低な男なんだ…

 ついさっきまでは舞香ちゃんを蔑ろにしていたくせに、いや、存在感すら全く意識さえしていなかったくせに…

 葵さんが居なくなり、いいや、消えてしまった現実の重さに押し潰ぶされていたくせに…

 絶望感に陥っていたくせに…

 突然、舞香ちゃんという存在感が、僕の心の隙間に入ってきて、そして、一つの小さな光明を灯してくれてきたのだ。

 もう分かっているくせに…

 舞香ちゃんのさっきの言葉がグルグルと脳裏の中を巡ってきていた。
 




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