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担当とハプバーで
第8章 最後の約束
どこまでの知り合いを招待するのか話し合いながら、カップの中の黒い液体が減っていく。
互いの家族、結婚式に招待してくれた友人たち、祥里の職場の人たちをリストアップしつつ、春先の忙しい時期というのも加味して差し引いていく。
大切なその会話の中でも、自分の半身が不自然に熱くなっているのを感じていた。
白革張りのソファで、隣に座っていたハヤテの体温を思い出すように。
どっどっと心臓が煩く響く。
ニヤリとしたあの横顔、グラスの中身を飲み干し上下する喉、コンコンとカウンターを叩いた指先。
組み直す時に筋肉の影が浮き上がる脚、開いた胸元から覗く天使の刺青、汗が伝う腹筋。
記憶は簡単にタイムスリップを可能にする。
揺るぎないこれからの人生を築くためのステップとなったこの一ヶ月を、ジェンガの一番下から容易く崩す。
最後のチョコレートを飲み干すと、ざらりと残る甘みが少しだけ冷静さを取り戻させてくれた。
「じゃあ日どり決めないとな。会社にこの先のスケジュールも調整してもらう。確か特別休暇申請できたはずだけど、凛音もできるよな」
「うん。総務に話してみる」
ああ、会社にも話すんだなあ。
予定は現実に染まっていく。
カップに口つけた祥里の顔をじっと見る。
あの日から若返ったように、肌ツヤとかヒゲの処理とかが綺麗になった気がする。
嫉妬なのか独占欲なのか、何がそうさせているのかは計り知れない。
でもあの朝帰りが確かに大きく変えたのだ。
「余興とか、誰に頼むかね。あとは式辞か」
「なんか文化祭の企画以来だね。こういうイベントをゼロから企画するのって。緊張しちゃうな」
「俺そういうのあんま関わんなかったから。プランナーに思い切り頼ろうと思う」
「祥里は逆にやってる方だと思ってた」
「いや、目立ちたくなかったし」
「ああ、それ聞いたらわかる」
目立つことは傷つくことだから。
無関係な立場からの非難に耐えないといけない。
登録者百万人を超えたあのチャンネルは、割合としては好意的な意見が多いけれど、目にあまるコメントも殺到してる。
どうしても引っ張られる思考を閉じて、トレイを返却口に戻しに立ち上がる。
コツコツと足音を鳴らして。
冷静に。
冷静に、凛音。