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担当とハプバーで
第5章 呼吸もできない沼の底
家に着いたのは、深夜一時前。
鍵を回して、扉を開けて、祥里の靴がないのを確認する。
ああもう。
あいつ朝帰りじゃん。
靴を脱いで玄関にしゃがみこむ。
それならハヤテと朝までいればよかった。
始発で帰ってくればよかった。
メッセージも先に寝てて、だけなんて。
暗い部屋を見渡す。
踏み入るのに勇気がいる。
私は今日、確かに祥里以外と体の関係を持ってきた。
それも大好きなホストと。
軽はずみな気持ちじゃない。
本気で悦んで、一線を超えてきた。
あのあと、シャワールームに二人で入ったのを思い出す。
狭い中でお湯を浴びながら、何度も噛み合うようなキスをした。
タオルで髪を拭かれたのも嬉しかった。
ドライヤーがひとつしかないから、お互いに時短方法を教え合いながら使ったっけ。
洗面所の扉を開けて、電気をつける。
ああ、すごい顔。
化粧も流れ落ちて、髪も乱れてる。
でも、なんて幸せそうな顔。
葉野凛音。
あんた、馬鹿だね。
今夜はあまりに色々ありすぎた。
有岡のライブが最早遠い昔のよう。
もし……。
もしも、ハヤテが来なかったら。
あの中の誰かと体を重ねたんだろうか。
もしもハヤテの誘いに乗らなかったら、泣きながら帰宅しただろうか。
もしもなんて、もう考えられない。
今日選んだ選択肢の結果だけが残ってる。
ー俺の連絡先、消してない?ー
帰り際のハヤテの言葉が脳裏に響く。
ー消してないよー
ー来週の火曜、もしまたここで会えるなら前日までにスタンプ送ってー
なんで、そんな約束。
男性スタッフにキーを返して、爽やかに手を振ってさっさとロッカールームに消えていった。
外に出たあとも姿は見かけなかったから、多分喫煙ルームで時間をずらしてたんだろう。
ーなんでー
ーそりゃあ、今日、四年分抱けてないからー
顔をメイク落としで洗って、服を洗濯機に突っ込む。
流石に今から回せないか。
歯磨きだけ緩慢に済ませると、寝巻きに着替えてベッドにダイブする。
明日から週末。
出来たら眠り続けたい。
今日の記憶を百回夢で見るから。
お願い、脳みそ。
今日を忘れさせないで。
どんなに馬鹿な愚行でも、幸せだったと断言できてしまうから。
ああ、でも眠気が襲い来る。
今夜が霞んでいく。
朝、祥里に、どんな顔をしよう。