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担当とハプバーで
第5章 呼吸もできない沼の底
熱くなった身体が冷房で冷えていく。
腕枕が気持ちよくて眠気が込み上げる。
「あ、時間」
「二十三時十五過ぎ。あと三十分で出ないと終電は間に合わないか」
終電……。
あの部屋に、帰らないと。
祥里からメッセージ来てるかな。
ロッカールームに置いてある携帯を思い返しながら、急に現実が降りてくる。
「千葉だっけ」
「うん……遠い」
「凛音が一人暮らしだったら朝まで一緒にいれたのにな」
「……それ言うのひどい」
ハヤテは冗談と言うよりも遠い目をしてた。
「ねえ、なんで今日……」
誘ったの。
それを聞いてしまっていいんだろうか。
どんな答えなら納得する。
満足する。
帰って泣かずに済む。
純粋な好意なわけがないのに。
「仕事早退したの」
「サボりたい時くらいあるよ」
「そう、だよね」
腕を引き抜いて座ったハヤテが、髪を解いてわしわしと指ですく。
サイドは剃り上げてても、下ろすとそれが分からないくらい自然なロングは、髪質を大事に保っているのか綺麗に艷めく。
「動画、来月には再開する」
唐突に言われてなんのことか分からなかった。
「あ、チャンネルの」
「最近のコメ欄見た?」
「なんかすごい嫌な感じのコメ増えた」
「そうそう。俺のことも反社呼ばわり。ナオキに至っては誰々の二番煎じだ、劣化版だって。うっぜえのが増えてさ。店にも動画見たって奴が沢山来んだけど……凛音みたいのは本当にいない」
「動画遡りすぎだもんね……」
「愛だと思うよ。普通に嬉しい。店で何十万使うよりも個人的には嬉しかった。今までの姫たちはどっちかっていうと応援より非難が多いし」
「あんなに面白いのに?」
「シチュエーション動画結構上がってるだろ。あれ、私のことでしょ、あれ言い過ぎじゃない、あれは好きじゃない……そういうのばっか」
ハヤテは背中を向けたまま。
こんなに愚痴を言うのなんて初めて見た。
「だから凛音が来なくなったの割とショックだったんだよな……ああ、また消費されたって」
消費。
「視聴者なんて姫より数十倍早く飽きて去ってく。 一時期毎日コメントしてきても、来年には当たり前にいなくなってる。姫も一年続くのなんて二割もいない」
「私、ずっとファンだと思うよ」
根拠もなく。
ハヤテは、振り向かない。
「引退しても、見返すよ」
はは、と笑う。
「さっすが」