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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第26章 和美 39歳

「次の方どうぞ~」

私は治療を待っている方を診察室に招き入れて驚いてしまいました。
だって、それはお隣の弓長さんご夫妻だったからです。
呼び出すためにカルテを見て『あら、お隣さんと同じ名前だわ』と思っていたのですが、
まさか当人だとは思いもよりませんでした。
どうやら不妊治療のためにクリニックに通院しているようでした。

不妊の原因は明らかです
旦那さんが無精子症だったのです。

その10日後の事です。
クリニックが休診だったその日はお天気が良いので
私は近所の公園でベンチに座って読書をしていました。

「こんにちは…」

背後からいきなり声をかけられて驚いてしまいました。
ご挨拶をしてくれたのはお隣の弓長さんの旦那さんでした。

「あら…こんにちは…
今日はお休み何ですか?」

「ええ、僕は不動産屋に勤めているので
水曜が定休日なんです」

隣に座ってもいいですか?

そう言われて「ダメです」とも言えないので
「あ、どうぞ」と私は少し横にずれて旦那さんの座るスペースを作ってあげました。

「男として不能だとお思いでしょうね」

いきなりそんなことを言われて
ああ、無精子症の事かとピンときました。

「いえ…そんなふうには思っていません」

現に不妊の原因は8割近くが男性に原因があることが多いので、不能だとかそんなふうに思っていなかったのは事実です。


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