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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第28章 葉月 54歳
私は宿の宿泊予約表を見て
ああ、今年もまたピークが去って
シーズンオフになろうとしているのねと
ホッと一息をついた。
夏には避暑を兼ねて
秋には紅葉狩りを求めて
それこそ連日のように満員御礼であった。
50歳を過ぎてから
私の体は悲鳴をあげていた。
それもこれも
この業界で働こうという人手が減って
女将である私が率先して働き
振り返ればこの三ヶ月ほど無休で働いてきた。
「ねえ、しばらくお休みを頂いていいかしら?」
私は仲居頭の遠藤晴美さんに尋ねた。
「ええ、そりゃあもうゆっくりしてくださいよ
私たちはちゃんと就業規則にのっとってお休みをいただいてますけど、女将さんは働き詰めですものね」
昨年まではこれ程までに多忙ではなかった
当旅館の主である夫と二人三脚で
上手く交代しながら乗りきってきたのですから
そんな夫もこの春に脳梗塞で倒れた。
今も入院中ですが、幸いなことに命に別状はなく
現在はリハビリに頑張ってくれています。
ふと、予約表を捲っていくうちに
三日後に斎藤康夫様が宿泊していただくことになっているのに気づいた。
いつもシーズンオフに訪ねてこられる
昔からの常連客さまでした。