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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第43章 有紀 38歳
時計の針が深夜を告げようとしていた。
私は編集長のデスクからパソコンの画面とにらめっこしている編集者の大泉を見つめた。
「まだ校正が終わらないの?」
苛立ちでついつい声を荒げてしまう。
「はあ…もう少しです…
あの、心配なさらずに編集長は帰宅されても構いませんよ」
人の心を逆撫でするように
呑気な声が返ってくる。
私が苛立っているのは彼のせいでもありませんでした。
今日は私と夫が婚姻を結んだ日…
つまり結婚記念日だったのですが、
一緒にお祝いをしようと計画していたのに
夫は作家さんがロケハンに行きたいからと言い出したということで先日から家を空けて作家さんとロケハン旅行に行ってしまったからです。
『なにもこんな日に行くことはないじゃない…』
出版社に勤めているので
作家さんを大事にしないといけないというのは
私も重々承知しています。
その作家さんというのが男性なら
私だって怒りはしないけれど
よりによって女性作家なので気が気ではありません。
作家と編集者がデキてしまうことは
この業界では当たり前の風潮になっていました。
当然です、
締め切りが間に合いそうもない時は
「缶詰め」と称して作家とホテルの部屋に閉じこもり執筆作業に専念させるので
どうしても二人だけで滞在する時間が長くなり
その気がなくても自然と男と女の関係になったりするものなんです。