この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第8章 女久美 54歳
女久美(めぐみ)は54歳の女。
彼女には子供がいない。
行かず後家というわけではない。
短大を卒業して間もなく、
今時の女性としてはかなり早い年齢で一人の男と入籍した。
家族計画など考えずに
ありのまま、避妊をしなければそのうち懐妊するだろうと思っていたけれど、
やがて三十路を迎えても一向に妊娠する徴候がなかった。
これはおかしいと、あわてて専門医を訪ねたところ
どうも夫側に原因があることがわかった。
それでも、不妊治療を行い足掻いてみたが
四十路を迎えるにあたって妊娠することはあきらめた。
夫婦ともに本来子育てに関わる時間がなくなったことから、共に仕事に精をだした。
おかげで、夫は中小企業ながらも重役ポストに収まり、
女久美はお局様と揶揄されながらも
定年まで無事に勤めあげることができた。
定年退職を終えたにも関わらず
その日の朝はいつものように通勤電車に揺られていた。
長年の習性で気づけば電車に飛び乗っていたのだ。
『うふふ…バカだわ私って…』
昨夜は、もう満員電車に詰め込まれる必要もないと安堵したにも関わらず
こうして満員電車に揺られている自分が可笑しかった。